背景
私たちの研究グループでは、これまでに、インドネシア・ジャワ島の鍾乳石中の炭素・酸素同位体比を計測し、過去50年間の降水量と時系列比較をして、相互の関係性を見出したことにより、『鍾乳石中の化学成分を用いて過去の雨量を推定できる』ことをアジア熱帯域で初めて明らかにしました[Watanabe et al., 2010]。
目標
本研究では、アジア熱帯域の鍾乳石の炭素・酸素同位体比から、過去1000年間の降水量を年単位で復元します。そして、既に報告されている中国やインドのデータと比較することで、アジア全体の降水量変動を詳細に理解することを目指します。
特色
近年、鍾乳石中の地球化学データを用いて過去の降水量を復元する研究が盛んに行われています(e.g. Fairchild et al., 2006; Wang et al., 2008; Zhang et al., 2008)。それらの研究では中緯度から高緯度域を対象にしていますが、この研究では赤道を中心とした低緯度域での雨量復元に注目しています。低緯度域はエルニーニョ・ラニーニャなどにより地球全体の気象に大きな影響を及ぼすので、低緯度域の雨量の変動史を把握しておくことは極めて重要です。
将来的に期待される効果や応用分野
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次報告書では、将来の雨量予測の精度が悪く、正確な雨量予測が今後の重要な課題とされています。特に、この研究が対象とするアジアは世界で最も人口稠密な地域であり、深刻な気象災害が懸念されているので、このような地域の雨量変動予測に、この研究が提供する“過去の雨量変動の情報”は重要な役割を果たすことが期待できます。