中―高速域における珪質断層物質の摩擦特性解明

 

■珪質断層表面の非晶質化・水和化過程

 

 

 海洋底に沈殿する放射虫などの珪質プランクトンの集合は,続成過程を経て固結したチャートと呼ばれる珪質堆積岩になります.珪質堆積物が,非常に長い年月をかけて岩石化していく過程における変形メカニズムに関する情報は,例えば沈み込み帯における,デコルマ(弱面)形成の過程と,そのような弱面構構造(断層や剪断帯)形成後の断層すべりの挙動を考える上での重要な知見となります.近年,珪質岩石の摩擦実験において,すべり変位,およびすべり速度の増加とともに摩擦の値が顕著に減少し,摩擦係数が 0.1 以下のきわめて低い値を示すことが報告され,その摩擦強度低下の機構が注目されています(Hayashi and Tsutsumi2009).珪質岩の高速すべりにおいてこのような強度低下の起こる機構の詳細はいまだ明らかになっていませんが,すべり表面におけるシリカ‐水相互反応の過程(摩擦化学反応)でシリカのゲル状物質(水和化非晶質シリカ)が形成され,その生成物質が可逆的弱化の性質を示す事が,その強度低下の要因であると考えられています.

 

Hayashi, N., and Tsutsumi, A., 2010, Deformation textures and mechanical behavior of a hydrated amorphous silica formed along an experimentally produced fault in chert, Geophysical Research Letters, doi:10.1029/2010GL042943.

 

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  コスタリカ沖中米海溝に沈み込むココスプレート上堆積物の摩擦剪断特性

 

図1.粘土鉱物を含む堆積物(a)および,珪質,炭酸塩質の生物起源堆積物からなる軟泥(c)のX線回折図形.(b)は火山灰層

 

 

図2. 定常摩擦強度のすべり速度依存性

 

 

IODPExp334「コスタリカ沖沈み込み浸食縁辺域における地震発生過程の解明」において,典型的浸食縁辺域とされるコスタリカ沈み込み帯における地震の発生過程(seismogenesis)を明らかにすることを目的とした掘削研究がすすめられています(図1).我々は,インプットサイト(Site-U1381A)で採取された粘土鉱物を含む堆積物(silty clay, UnitⅠ)および,珪質および炭酸塩質の生物起源堆積物からなる軟泥(siliceous to calcareous ooze, UnitⅡ)について,垂直応力5 MPa,すべり速度約0.003, 0.03, 0.3, 3 mm/s,含水条件における摩擦の性質を調べ,摩擦強度とその速度依存性を検討しました.実験の結果,粘土鉱物を含む堆積物と生物起源堆積物との間で,摩擦特性が大きく異なることが明らかになりました.

 

粘土鉱物を含むUnitⅠの堆積物はおよそ0.2以下の非常に小さい摩擦係数を示すのに対し(すべり速度は0.3 mm/sで一定),生物起源堆積物からなる軟泥は,同様の条件で0.75程度と高い摩擦係数の値を示します.摩擦の速度依存性においてもこれら二種類の試料の示す摩擦特性は顕著に異なるようです.たとえば,粘土鉱物を含む堆積物試料の定常摩擦は,実験した速度範囲において常に正の速度依存性※1を示すのに対して,生物起源堆積物の摩擦は顕著な負の速度依存性※2を示すことで特徴付けられることが明らかになりました(図2).X線回折装置をもちいた分析結果によると,UnitⅠの堆積物とUnitⅡの堆積物との間には,含有鉱物の種類に顕著な違いがみられます(図1).これらの堆積物中に,例えば粘土鉱物(おそらくスメクタイト)が含まれるかどうかといったことが,コスタリカ沖沈み込み帯の断層摩擦の性質を支配している可能性があります.地震時断層すべりにおいて,このような異なる摩擦特性を示す物質のどの部分に変形が集中するのかといった問題について研究をすすめることが,地震発生の素過程を明らかにする上で重要であると考えています.

 

 

Namiki, Y., Tsutsumi, A., Ujiie, K. and Kameda, J., 2014, Frictional properties of sediments entering the Costa Rica subduction zone offshore the Osa Peninsula: Implications for fault slip in shallow subduction zones, Earth, Planets and Space, Frontier Letter, 66:72  doi:10.1186/1880-5981-66-72

http://www.earth-planets-space.com/content/66/1/72

 

 

  Acknowledgements

珪質断層物質の摩擦特性解明研究実施において,以下の研究費助成を受けています.

科研費補助金(基盤B) 「中―高速域における断層の摩擦化学反応過程と断層強度弱化の機構解明」

(平成24年度~平成26年度,JSPS grant 24340104

IODP乗船後委託研究費 (平成23年度~平成25年度)

 

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■巨大分岐断層物質の摩擦特性                    

 

 

 我々は、紀伊半島沖南海トラフ付加体中に発達する巨大分岐断層(splay fault)浅部から採取された断層物質(IODP_EXP316_Site C0004, Hole D)について,幅広いすべり速度条件における摩擦の性質を明らかにすることを目的とした摩擦実験をおこなっています.これまでの実験によって,南海掘削で得られた粘土質断層試料中には,有効垂直応力 < 5MPa, 総断層すべり量~500 mm、含水条件下において、低速から数 10 mm/sのすべり速度で,摩擦が正の速度依存性(すべりが加速するほど断層抵抗が大きくなる性質)を示す試料と負の速度依存性(すべりが加速するほど断層抵抗が小さくなる性質)を示す試料の存在することが明らかになってきました。実験後の断層試料の解析にもとづいて、異な速度依存性を示す示す試料の特徴も抽出されつつある。例えば、摩擦が正の速度依存性を示す試料には、一様に分散した剪断変形組織が発達する(写真のType B)のに対して、負の速度依存性を示す試料においては、断層に平行に近い剪断面が多数発達する様子が認められます(写真のType A)。

 南海トラフのような、付加体形成を伴う沈み込み帯に発達する断層の摩擦の性質は、比較的浅い領域については、正の速度依存性(velocity strengthening)を示すものと考えられてきました。すなわち、付加体浅部の断層は非地震性の性質を示すものであろうととらえられていたのです。今回の実験で明らかになってきた分岐断層物質の摩擦の性質は、最近明らかになってきた,付加体浅部における断層の不安定すべりの発生機構などを議論する上で重要です。

 

Tsutsumi, A.,  Fabbri, O.,  Karpoff, A. M., Ujiie, K., and Tsujimoto, A., 2011, Friction velocity dependence of clay-rich fault material along a megasplay fault in the Nankai subduction zone at intermediate to high velocities, Geophysical Research Letters, doi:10.1029/2011GL049314

 

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